前回までの記事でトリマーがどのようなお仕事かというのは具体的に分かって頂けたかと思います。
それでは今回は実践編として、具体的にどうやって犬を大人しくさせるのかを述べていきましょう。
よほどの例外を除いて、犬はトリミングの台に乗せられるとそれまで騒がしくても一気に大人しくなると言います。
勿論中には暴れ出す犬種もありますが、その暴れ出す犬種はなぜ暴れるのかも含めてコツを公開していきましょう。
これからトリマーを目指される方は勿論飼い主の方々もトリマーはこういう形で仕事をしていると知っておいてください。
犬がトリミング大人しい理由
まずはここでトリミングで犬が大人しい理由を述べていきましょう。
いくつかありますが、大体以下の要素が挙げられます。
高い場所が苦手
まず犬は猫と違って高い場所が苦手であり、よほどのことでもない限り、自宅ではない別の場所で高い台に乗せられた時点でおとなしくなります。
猫との違いで見て頂ければ分かりますが、猫は自由自在に高い場所だろうが身軽に登ったり降りたりすることが出来る生き物です。
しかし、犬はそのような身軽さはなく、基本的にしっかり安定した地盤の上にいるときにこそ安定していますので、不安定な高所に登りません。
だから高い場所に登ることで犬は大人しくなるのというのは割と必然的なことだったりします。
賢くて空気が読める
2つ目に、犬は空気を読むことに長けている賢い生き物なので、トリミングに連れて行くと周囲の空気などからすかさず上下関係を読み取ります。
犬のトリミングの場合はトリマーの方を見て犬は一瞬で「逆らっても無駄だ」と関係性を弁えて大人しくなるのです。
これは飼い主が「大人しくしろ」などと言わなくても、無言のうちに犬はその空気や状況から冷静に自分の置かれた立ち位置を判断します。
特に賢い犬種になれなるほど、その辺りの洞察力・判断力には長けているので、無駄に逆らって困らせるようなことをしないでしょう。
自由に振舞いたいから逆らう猫とは違い、犬は群生の生き物なのでこのあたりの協調性は他のどの動物よりも優れているのです。
トリマーが細心の注意を払っている
トリマーもまた決して考えなしに作業しているのではなく、経験値や飼い主の事前情報などから総合的に犬の嫌がることを判断しながら作業します。
そのために保定したりして、犬を暴れさせないように細心の注意を払って作業しているのです。
表面上あまり動かないように見えても、実際ほんとにおとなしい子の場合もあれば、さりげなく左手で犬を保定している場合なんかもあります。
それくらい繊細さと慎重さを要求される作業であり、僅かでもズレが生じると犬の生命を脅かす危険行為に繋がりません。
トリマーは獣医やブリーダーなどと同じように、犬の命を最前線で預かり犬の命と真剣に向き合う過酷な仕事ではないでしょうか。
なぜ犬はトリミングで暴れるのか?
上記したように、よほどのことがない限り犬がトリミング台の上で暴れることはありませんが、しかし世の中には例外というのものが必ずあります。
There is no rule but has some exceptions.(例外のない規則はない)という諺まで世の中にはある程ですから。
本来、シャンプーもカットも気持ちいいものであるはずが、暴れる犬もいますが、なぜ暴れるのでしょうか?
その原因を以下にまとめてみました。
子犬期に経験がない
まずトリミング台で暴れてしまう犬は大半が子犬期にそのトリミングの経験がなく、免疫や抵抗ができていないからです。
成犬になるまでサロンやショップに出さなかったため、知らない場所で知らない人に触れられることを極度に嫌がり暴れます。
犬は縄張り意識が強い生き物なので、基本的に家以外のアウェーの場所は異国の地と見做して臨戦態勢になるのです。
だから、子犬期にどれだけ外を歩かせたかは大事なのであって、可愛い子には旅をさせよではないですが幼少期の経験は良くも悪くも大事になります。
子犬の時にトリミングに行ったことがなく成犬になってしまうと、そういうカルチャーショックを起こして気が動転してしまうのでしょう。
極度のトリマー不振
2つ目に過去に一度でも腕の悪いトリマーに引っかかってしまうと、それだけでも犬はトラウマから怖がってしまいます。
逆に言えば、トリマー不振になるには犬に苦痛を与えるやり方でシャンプーカットをしているということです。
いくつか例を挙げると以下の通りになります。
- シャンプー時のお湯の温度が熱すぎた(冷たすぎた)
- 犬にかけるシャンプー剤の温度が熱すぎた(冷たすぎた)
- 顔を洗う時に鼻にお湯を入れられて呼吸ができなくなった
- ブロー時犬を温めず末端からドライヤーをしたため寒かった
- 顔を乾かす時に鼻に温風がダイレクトに入って呼吸ができなかった
- 毛玉やもつれを解く時のスリッカーブラシが乱暴で皮膚に傷ができた
こういう風に、一度でもトリミングでトラウマのある犬はトリマーに対して恐怖を感じてしまうのです。
トリマーさんに毎回「元気いっぱいでした」といわれる裏側にはこのような現実の残酷さが少なからずあります。
トリミングは苦痛であるということを学習した上でそれが何度も続くと、暴れる犬が出来上がるわけです。
性格が極端である
3つ目に、性格が極端にやんちゃか、逆に極端に大人しい犬だと性格的な問題から暴れてしまうことも少なくありません。
これに関しては上2つと違って後天的な問題ではなく、先天的な問題なので解決することは難しくなります。
そういう犬に対しては人間側で何か施そうとすると帰って症状を悪化させる可能性もあるので気をつけてください。
社交性に問題のある犬はトリミングに限らずどこでも暴れてしまうという問題を常に孕んでいるのです。
そうなるとトリマーは勿論飼い主まで怪我のリスクがあるので、一度暴れ出すと手に負えません。
暴れる犬の対処法
それではこれらの暴れる犬を大人しくさせ、うまいことトリミングに持って行くにはどうすればいいのでしょうか?
ここではその具体的な対処法を説明していきます。
飼い主がすべき対策
暴れる犬の対策はトリマーだけではなく飼い主も自発的に行うべきものであり、まず飼い主のなすべき対策を考えてみましょう。
飼い主がなすべきことは愛犬がサロンやショップ、動物病院などでどのような扱いを受けているかをきちんと見定めるべきです。
全てのサロンやショップ・動物病院がそうではないですが、中には見学を禁止しているサロンやショップもありますので、そのような店は避けてください。
酷いお店になると、噛みつく犬は紐で口をぐるぐる巻きに縛られ、爪を出血するまで切られ、お昼休みになる時間に乾いていない犬がいたら強制ドライヤーという虐待まがいのことをする店もあります。
そういうお店もたくさんあるので、きちんと飼い主の前でトリミングを行ってくれるクリーンなお店に行くことを忘れないようにしましょう。
トリマーがすべき対策
次にトリマーがすべき対策として、基本的なことですが常に犬のことを第一に考えて、犬が嫌がることは絶対に行わないようにしましょう。
その為に出来ることは基礎作業の確認ですが、まずトリマーが心がけるべき基礎は以下の通りです。
- お湯を最適な温度にする
- 犬を優しく包み込むように抱き上げ乗せる
- 平常心で愛をもって犬と対面する
- バリカンやハサミの扱いなどは慎重に丁寧に行う
- 不衛生な部屋にならないよう、身だしなみはしっかし整える
当たり前ですけども、まずこれらのことができなければとても一流のトリマーとは言えないでしょう。
特に身だしなみや部屋の清潔感を犬はとても敏感に察知しますから、一瞬でも「不潔だな」と思われたらその瞬間に終わりです。
また、トリマーも間違っても犬と戦おうなどと思わず、優しく丁寧に扱うという心構えをきちんともってください。
結局このあたりの基礎基本が抑えられていないから、暴れる犬が出てきてしまうのです。
どんな仕事も結局は軽微なミスや不注意がいざという時の大事故に繋がってしまいます。
その辺りをきちんと気をつけることができれば問題ないのではないでしょうか。
大事なのはとにかく「褒める」こと
そしてこれは飼い主とトリマーの双方に言えることですが、施術が終了したら真っ先に愛犬を褒めてあげてください。
勿論それは毎回行くたびに行ってあげることであり、犬がトリミング嫌いになってしまう原因も実はここにあります。
犬は承認欲求の強い生き物ですから、何かを達成するたびに認められないのがとても嫌な生き物なのです。
そこで褒めて伸ばすということを飼い主もトリマーも忘れずに、声かけやおやつあげをしましょう。
こういうちょっとした工夫1つで犬はトリミング及びトリマーを好きか嫌いかが決まると言っても過言ではありません。
犬はあくまでも褒めて伸ばす生き物であるというこの基本を忘れないでください。
トリミングで犬を大人しくさせるポイント
以上を踏まえて、トリミングで犬を大人しくさせるポイントを考えてみましょう。いくつかありますが、特に以下の3つは絶対に心がけてください。
- ソフトタッチ
- 目配り・気配り・心配り
- 平常心
この3つは絶対に忘れず、トリマーの方は犬に心地いいお店だと思ってもらえるようにしましょう。
そのためのヒントは人間の美容の延長線上にあると考えた方がいいのではないでしょうか。
例えばある美容院や理容院に行った時、そこの店員さんが凄くラフな対応をしていたらどういう気持ちになるかというと、当然不快ですよね。
二度とそのお店に行こうとは思わないはずでし、それは犬の方も全く同じで扱い1つで心がけは変わってくるのです。
人間に対しても丁寧な対応が求められるように、犬に対してもそのような対応が求められ、真摯に対応して行くべきでしょう。
あなたの心配り1つで犬はハッピーにもアンハッピーにもなるというわけです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は犬がトリミングで暴れるというマイナスのケースについて、様々な観点からその理由や対処法を紹介いたしました。
犬は口が利けないので、暴れたり噛みついたり震えたりで抗議しており、それらのサインが出たときはトリマーの腕や店の雰囲気に問題があると思ってください。
トリミングは美容で気持ちよくなるためのお店であって、苦痛の元凶であってはいけませんので、トリマーはくれぐれも細心の注意を払って行いましょう。
また、丁寧に扱ってくれるサロンやショップを見つけるのは飼い主さんにかかっていますから、きちんと良質のお店を選んであげることが大事です。
せっかくのペットライフですから楽しく気持ちの良いものにしていこうではありませんか。