これまでの記事で多頭飼いの難しさやリスク、また多頭飼い向きの犬種とそうでない犬種の違いを解説してきました。
今回はそれを踏まえた上で、それでは多頭飼いのしつけは難しいのかどうかを検証していきます。
多頭飼いというと非常に難しく、実際に多くの問題や壁を孕んでいるイメージがあることは間違いありません。
しかし、決して不可能なことではなく事前準備が出来ていれば誰にだって出来る可能性はあるのです。
初心者であっても多頭飼いのしつけは決して難しくはなく、それを可能にするコツはあります。
これから新しく多頭飼いを始めようとお考えの飼い主の方は是非参考にしてみて下さい。
多頭飼いは博打
さて、改めて多頭飼いについて書きますが、多頭飼いは誤解を恐れずに言えばもはや「博打」の領域です。
まずメリットよりもデメリットの方が大きいですが、その理由としては以下の2つが挙げられます。
1、愛犬同士の相性がきちんと合うかどうか
2、飼い主が2頭以上を養っていける十分な経済力と時間・体力があるかどうか
人間を突き動かす欲求の根源はこの2つを見れば分かるように「デメリットを回避したい」にあるのです。
1頭飼いのメリットは飼い主さんにかけてもらう時間もお金も愛情も独り占めということにあります。
一方で2頭以上のメリットは相性が良ければ愛犬同士で楽しく遊ぶことが出来ることです。
そう、多頭飼いをするとなると但し書きや条件付きが必然的に増え、リスクもそれだけ増えます。
まずこの辺りのリスクを考慮した上で対策を取らなければ、上手くいきません。
多頭飼いのしつけは難しいのか?
かようにリスクが高いと言われる多頭飼いですが、では実際にしつけの方はどうなのでしょうか?
本当に難しいのかどうか、以下解説していきます。
2頭以上を飼えるのかどうか具体的にイメージする
まず大事なことは自分が2頭以上を飼えるのかどうか具体的にイメージすることです。
2頭以上を飼ったときにかかる時間とお金をまず具体的に算出してみましょう。
1頭に必要な最低限の年間経費は大体以下の通りになります。
・月々のお世話代:約5万円×12カ月分
・年間の医療保険料:約7万円
・ワクチン、健康診断など日々の健康管理:4万円
・合計1頭の年間経費:合計約71万円
もし2頭になったら約142万円であり、3頭で約213万円と低所得の労働者なら完全に自己破産コースまっしぐらです。
大きな手術や病気があればさらに増えますので、最低限かかってしまう経費と飼育にかかる時間は減りません。
ここまでの痛みを伴うことを承知の上で飼うというドMみたいなことをしなければいけないのです。
飼育にかかる時間も倍増する
金額を見ただけでも頭が痛くなりそうですが、飼育にかかる時間も倍増します。
基本的に1日のうち4時間以上かかるので、犬は決して楽に飼える動物ではないのです。
お散歩に1日2回以上行けない場合は室内でいろいろな遊びをする必要があるでしょう。
もし2頭になったら、約4時間×2頭=1日8時間が必要となるわけですから相当なものです。
そんな風になってしまうと、仕事とプライベートの双方において支障を来すことになり兼ねません。
不可能ではないが、希望的観測は持たないこと
このような現実を考えれば難しいことは難しいですが、やり方次第では不可能ではありません。
しかしだからといって妙な幻想や希望などは持たず、とことんまで多頭飼いの現実と向き合って下さい。
特に初心者の場合は右も左もわからず知識もゼロの状態から始める人が殆どです。
だからこそ、尚更のこと用意周到さが試されるわけであり、きちんと準備をしましょう。
目先ではなく長期で見た時にそれがきちんと成り立つ関係性であるかどうかが大事です。
そうしたネガティブな問題をきちんと乗り越えた先にこそ素敵な未来は開けています。
多頭飼いにおけるしつけのコツ
さて、ここからは多頭飼いにおけるしつけのコツを解説していきます。
果たしてどのようなことをすれば初心者でも多頭飼いが可能なのでしょうか?
最初は引き合わせず別々に育てる
まず最初の3ヶ月〜半年程は決して引き合わせず別々にしつけをして下さい。
食事やトイレはもちろんのこと遊びにおいても直ぐに先住犬と後住犬を引き合わせず別々にしましょう。
特に子犬期〜社会化期の時期に変に先住犬と絡ませるよりはまず飼い主と後住犬の関係性を作ることです。
あくまでも犬とのペットライフにおいて1番に大切にするべきは犬と飼い主という縦の上下関係にあります。
そこが出来て初めて先住犬と後住犬の関係性を築くことができるようになっていくのです。
愛犬同士以前にまず飼い主との関係性を一から作り上げる所から地道に始めていきましょう。
飼い主を別にする
飼い主が1人の場合は別ですが、2人以上いる家族のような所であれば先住犬と後住犬の飼い主を別にしましょう。
なぜならば、飼い主を同じにするとこちらの記事で述べたように嫉妬による愛犬同士の覇権争いが起こるからです。
そのような事態が一番無益な争いなので、それを避けるためにも新しく入ってきた犬は別の飼い主にすることをお勧めします。
また、飼い主を別にすることで他の人たちにとっても犬のしつけのいい勉強になるからです。
飼い主を別にして育てることで負担は大きくなり、いざ引き合わせてもショックは幾分少ないでしょう。
先住犬を1番に立てる
そしてこれが1番大事なことですが、絶対に先住犬のプライドを優先し立ててあげることを忘れないでください。
飼い主からの愛情を一身に受けてきた先住犬にとって、新しく迎えた犬は群れにおける順位を揺るがす存在になりかねません。
先住犬が精神的に不安定になれば、迎えた犬もまた不安定になりがちなので、まずは先住犬を大事にして挙げましょう。
先住犬が安心感を得て落ち着いていれば、多頭飼いを穏やかに進められますので大丈夫です。
人間の世界には人間のルールがあるように、犬の世界にも犬のルールというものが存在します。
そこを忘れてしまって、後から入ってきた犬ばかりを可愛がる依怙贔屓のような真似は多頭飼い崩壊の原因となるでしょう。
多頭飼いにおける大事なポイント
さて、それらが出来たら今度はさらにテクニカルな多頭飼いのしつけにおける大事なポイントを解説します。
より成功率を高めるためにも何が大事かを改めてきちんと解説していきます。
犬同士を引き合わせた最初のうちはトライアル期間とする
まず別々に育てた愛犬同士を引き合わせた最初の3ヶ月〜半年は犬同士の相性を見極めるトライアル期間として下さい。
犬同士の上下関係や優劣は人間が思っている以上にシビアで複雑なものであり、傍目に見ただけでは分かりません。
表面上相性が良いように見えても、飼い主の与り知らない所で壮絶な犬同士の喧嘩が行われている可能性があります。
また、後住犬はどうしたって先住犬の影響を良くも悪くも受けてしまうので、長所ならまだしも短所まで受け継いだら大問題です。
悪影響が出始めるとそれが大きな火種となって多頭飼い崩壊になりかねない可能性もあるので、慎重に見極めましょう。
その為にも引き合わせた最初の半年程度はトライアル期間で相性を見極めていくことが大切です。
多頭飼いの当初は犬だけで遊ばせない
多頭飼いのなかで犬同士の結びつきが強くなると依存の関係に陥ることもありますので、それは全力で回避しましょう。
何でも一緒じゃないと行動できない、関係を壊すものは排除しようとするなど問題行動につながりがちです。
犬同士で序列をつくりあげると、飼い主の言うことを聞かなくなる恐れもあります。
上で挙げた先住犬の短所を後住犬が真似してしまい、それが飼い主を困らせる元凶になってしまうからです。
過保護にならない程度の距離感を保ちつつ、愛犬それぞれとコミュニケーションをとるように心がけましょう。
この辺りの一線をどれだけしっかり引くことができるかが愛犬同士の関係性を上手く成立させる秘訣になります。
常に別々の時間を作る
そしてこれが最も大切なことですが、仮に先住犬と後住犬の関係性が成立した後でも常に別々の時間を作って下さい。
先住犬が成犬で新しく迎える犬が子犬の場合、やんちゃ盛りでエネルギッシュな子犬に先住犬が嫌がる場合もあります。
子犬を受け入れなくなってしまうと多頭飼いが上手くいきませんし、その関係性は成犬になっても全く変わりません。
人間にだって常に一緒にいるよりは適度な距離感が必要であるように、犬にとっても一人でいる時間は重要です。
親しき仲にも礼儀ありではないですが、この辺りの線引きを見誤ってしまうと依存関係に陥りかねないでしょう。
常に適度な距離を置き、無理に遊ばせないようにしてお互いにとって最適な関係性を保たせて下さい。
住処は別々にして隔離する
そしてこれが犬にとって1番大切ですが、先住犬と後住犬の住処もまた別々にして隔離して下さい。
犬は極めて縄張り意識の強い生き物であり、狼としての習性が残っているので犬同士であっても自分の領域に入られたくありません。
ですから、もし先住犬と後住犬を同じ場所や近くに住ませているのであれば、それは多頭飼い崩壊を引き起こしかねない原因になります。
そのことで犬同士が縄張り争いによる喧嘩やマーキング・無駄吠えなどに発展したら目も当てられない悲惨な事態になるでしょう。
そのようなことを避ける為にも、絶対に住処は別々にして全く違うところに住まわせて物理的な距離を置くことが肝心です。
何事も常に最適な距離感を開けてこそ上手くいくように出来ています。
多頭飼いは全て飼い主の自己責任
ここまで見ていくと、多頭飼いはイメージとは違って凄く大変なことがわかって頂けたことでしょう。
SNSなどでは楽しそうに多頭飼いの写真が掲載されていますが、それは氷山の一角であり楽しそうな一面を載せているだけです。
実際のところはもっと大変な苦労や現実の苦しみ・格闘がたくさんあるのであって、上辺だけで根拠なき楽観視をしてはいけません。
相性が悪区なってしまい飼い主さんの愛情が分散して足りなくなるくらいなら、最初から1頭の方がいいのです。
愛犬に遊び相手がいなくてさみしそうなら犬の友達に会いに行くなど飼い主さんがもっと遊んであげましょう。
多頭飼いをするかどうかを決めるのはあくまでも飼い主の自己責任であって、簡単にできることではありません。
愛犬をもしかしたら不幸にしてしまうかもしれないという覚悟というか最悪のケースは常に想定しておいてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は多頭飼いのしつけの難しさとそれを避けるためのコツについて沢山お話をしました。
やはり多頭飼いはそれ自体が一つの博打であり、経済的にも体力的にも大変なものであると言わざるを得ません。
しつけをするにしても気をつけるべき点は沢山あるわけであり、表に見える華やかさに反して裏はすごく大変です。
そのことを覚悟した上でなお愛犬との生活が楽しくて仕方がないという人こそが多頭飼いのしつけができるでしょう。
結論としては多頭飼いのしつけは難しいし労力もお金もかかりますが、やろうと思えば初心者でも不可能ではありません。
是非ともよくよくお考えの上で納得の行く多頭飼いを選択なさってください。