日本犬というと柴犬や豆柴は勿論秋田犬・土佐犬などその種類が意外にも多いことが想像されるでしょう。
しかし実際の所、日本犬は他の海外犬と比べてどういう特徴と歴史を持ち、具体的に何種類程いるのでしょうか?
今回はそうした日本犬のルーツに迫りながら、日本犬の全体像をしっかり解き明かしていきます。
日本犬の歴史
日本犬というと、多くの人は渋谷に銅像がある「忠犬ハチ公」を思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし、その忠犬ハチ公が秋田犬であることを把握している人はそんなに多くありません。
ここではその日本犬の歴史について、改めてそのルーツを解析していきます。
縄文時代の夏島貝塚
考古学によると、日本犬のルーツは実は縄文時代に見つかった日本最古級の夏島貝塚で発見されたものが起源だとされています。
犬の骨は牡蠣の貝殻や木炭と同じく第一貝層より出土しており、およそ9500年前のものと考えられている模様です。
昔から犬が既に人々の生活の中に馴染んでいたことが窺えるというのは驚きではないでしょうか。
もっとも、骨の量が少なかったのでDNA解析など詳細は不明ですが、この時代は犬よりは狼だったと思われます。
この夏島貝塚を起点として、田柄貝塚や東名遺跡など日本中の貝塚・遺跡から犬の骨が出土するようになりました。
世界で最も狼に近い犬
日本犬は柴犬に代表されるように、素朴で忠実・勇敢な性質の犬であり、その見た目も体型も実は殆ど昔と変わりません。
つまり原始的な犬及びその先祖とされる狼の特徴を色濃く残しており、世界で最も狼に近い犬種だと言われています。
その証拠に2004年のワシントン大学で発表された85犬種の414匹の犬の研究では日本犬の柴犬と秋田犬がサンプルにありました。
そしてその柴犬と秋田県は狼の遺伝子を色濃く受け継いでいる犬種に含まれていることがこの研究により判明したのです。
理由としてはおそらく日本においては海外のように実験などによる交配や遺伝子操作などがあまり行われないからでしょう。
動物を自然のものとして愛するという精神においては海外よりも日本の方が優れていると言えます。
代表的な日本犬6種
今日正式な形で「日本犬」と認定されている犬種は天然記念物に指定されている6種類です。
これまで紹介してきた柴犬・秋田犬なども含めて紹介していきましょう。
柴犬
もはや言うまでもない日本犬の代表格であり、唯一の小型・中型犬であり最も多く飼われている犬種です。
見た目は素朴で愛らしいですが、中身は野性味の塊であり鋭い感性を備えていて、決して人間に依存ない一匹狼タイプ。
しかし、だからこそ心から信頼を寄せる飼い主に対しては疑うことなくその躾に従うという忠誠心があります。
素朴でありながらも凛とした性格と顔つきは日本の侍を彷彿させ、海外でも絶大な人気を誇っているのです。
1993年にはアメリカンケネルクラブにも認定され、アメリカにも熱心なファンが多く柴犬愛好会もあります。
秋田犬
上記でも触れましたが、日本を代表する「忠犬ハチ公」のモデルとなった犬種であり、柴犬に負けず劣らずの人気を誇ります。
性格は温和で従順、飼い主を信じてひたすらに待ち続ける優しく温かいタイプなので、非常に飼いやすいと言えるでしょう。
しかし、決して依存体質ではなく中には立派な芯を持ち、かつて猟犬だったこともあり戦闘意欲もあるバリバリの肉食系です。
海外でもアメリカンアキタという交配種ができており、また映画「HACHI 約束の犬」で話題を呼ぶほどの人気を誇ります。
1931年に国の天然記念物に指定され、秋田を代表する名物の一つになっていることは間違いありません。
北海道犬
名前からも分かると思いますが、先住民族のアイヌの人々が狩猟に用いていた番犬がルーツとなっている犬種です。
寒冷地に適した厚い被毛を持ち、性格は慎重ながらも臨戦態勢に入ると大胆で闘争本能を剥き出しにします。
自分より強い犬であればある程その闘争心は強くなり、命を賭して突撃するといった気性の激しさもあるのです。
目つきも鋭くその精神は冷静沈着ですが、その分飼い主の前では凄く従順で可愛らしい面を見せるツンデレでもあります。
1937年に国の天然記念物に指定され、1951年には北海道犬保存会まで創立された程の犬種です。
甲斐犬
あらゆる日本犬の中でも猟犬の側面が色濃く残る犬種であり、人間とは不即不離の関係で生きてきました。
性格は「一代一主」、即ち一生を一人の主人に捧げると言われる程飼い主への忠誠心で全てが成り立つ一本気さです。
イノシシやカモシカ、クマなどを相手に敢然と立ち向かう勇ましさと戦闘力の高さから軍用犬として訓練されていた時代もありました。
鋭敏な神経に素早い身のこなしであり、スパイ任務などにも活用できることから柴犬が「侍」ならこちらはさしずめ「忍者」でしょうか。
1931年に甲斐犬愛護会が創立され、1934年に国の天然記念物に指定されました。番犬としても非常に優秀な影の実力者です。
紀州犬
ルーツはイノシシ猟犬として活躍した紀の国(今の和歌山県)で活躍する伝説の犬種と言われる程の神秘的な存在です。
狼の遺伝子が色濃く残っており、弘法大使を案内した犬であるという言い伝えがあり、性別が見た目に出ます。
オスは体格がしっかりしていて瞬発力があり、メスは小柄な分すばしっこく、どちらも猟犬向きの資質を持っているでしょう。
性格は非常に気が強いのですが、やはり日本犬の伝統らしく心を許した飼い主にだけは等身大の甘えた一面を見せることもあります。
1934年に国の天然記念物に指定され、当時は太地犬もしくは熊野犬という名前にするかという論争まで起こった程です。
四国犬
四国山地の猟犬として土佐闘犬のモデルにもなった四国犬は非常に筋肉質な体つきと気性の激しさで狼の野性味が色濃く残っています。
その横顔はシンリンオオカミと酷似していると言われ、四国犬を見た人の中には狼と間違える人もいるとされる程です。
性格は非常に猛々しく戦闘力や運動神経も抜群ですが、その魂は気高く美しい為に素朴ながらも上品さを感じさせます。
しかし、やはり日本犬の伝統らしく飼い主に対しては素直で忠実な一面を見せ、現在では温厚なタイプも見られるようになりました。
1937年に国の天然記念物に指定され、土佐犬はこの中の亜種・派生種として扱われています。
柴犬の亜種・派生種
日本犬と正式に認められているのは天然記念物と国から認定されている6種類ですが、勿論それだけではありません。
ここでは柴犬の亜種・派生種や日本犬の一部と見做されている犬について解説していきましょう。
美濃柴犬
美濃柴犬は岐阜県の郡上郡、山県郡、武儀郡などでよく見られるは柴犬の派生種で、緋赤の濃い体毛が特徴的です。
地域の愛犬家にはとても大切にされており、野性味と風格を感じさせる立派な体躯を兼ね備えています。
従来の柴犬と比べても非常にカッコよく、この地域で犬を飼いたい人は考えて見てもいいかもしれません。
山陰柴犬
山陰柴犬はアナグマ猟に使われていた山陰地方の因幡犬がルーツとなっており、一時は絶滅危惧種でしたが今はその危機を免れました。
他の柴犬と異なり、山陰柴犬は韓国の珍島や済州島の犬と近い関係にあると言われており、派生種の中では最も見た目が原種に近いです。
見た目の細さとに反して中身はとてもカッコよく戦闘力も非常に高いので山道を散歩する時には大変役立ってくれます。
川上犬
川上犬は長野県南佐久郡川上村を原産としており、長野県の天然記念物に指定されている地域密着型の柴犬です。
運動能力が高く野性味が強いその性格は猟師が飼い慣らしたニホンオオカミの子孫だという言い伝えもあります。
原種よりひとまわり体が大きく体毛も分厚い為、完全に寒冷地に特化した体つきと言えるでしょう。
日本原産の交配種
海外から持ち込まれた犬との交配によって誕生した日本原産の交配種も存在します。
人間でいう「ハーフ」「クォーター」ですが、ここでは4種類解説していきましょう。
狆(ちん)
名前から分かるように、中国の王朝で飼われていたペキニーズのような犬を元に日本で改良された犬です。
顔の真ん中に目・口・鼻の全てのパーツが集まっているという個性的な顔立ちが特徴的でしょう。
江戸時代に武士階級や富裕な商人の間で大流行し、ここから顔が醜い人を罵る「狆くしゃ」という言葉が誕生しました。
土佐犬
上でも説明しましたが、こちらは四国犬の亜種にして土佐闘犬とも呼ばれ、明治時代に誕生した犬種です。
原種の四国犬にマスティフなどの洋犬を交配しているためにジャパニーズ・マスティフとも呼ばれています。
体は筋肉質で俊敏に動くことがで出来、臨戦態勢で重心を低く取っているために足腰が非常にしっかりしていて力強いです。
闘犬であるが故にとっつきに悔いので十分な準備と覚悟で飼う必要がありますが、飼い主には寛容で人懐っこい一面を見せます。
日本スピッツ
ルーツは大正末期から昭和初期にかけてカナダ・中国・ヨーロッパから入ってきた白いジャーマン・スピッツだったと言われています。
美しい白毛と愛らしい顔が特徴的なことから時々希少種のサモエドと見間違われることがあるくらい愛され犬です。
一時期不人気だったこともあり見かけなくなっていましたが、近年は優雅でおとなしい犬に改良されています。
朗らかながらも繊細な性格なので一度買われてみてはいかがでしょうか。
日本テリア
明治末期から大正にかけて交配して作られた派生種で、ベースとなる犬はスムース・フォックステリアです。
顔だけが黒く後は全部白で体毛が薄いというのが他の日本犬と比べても異色の犬になります。
性格は穏やかでおとなしく、寒さには弱いですが抜け毛が目立たず体臭もないので飼いやすい犬種でしょう。
神戸や大阪などの関西地方で多く飼われていたことから「神戸テリア」とのニックネームがつけられる程の人気です。
海外で人気の日本犬
近年、海外で日本犬ブームが起きていると言われており、ハリウッド映画やアメリカン・アキタなどはその例でしょう。
今や日本犬は世界に誇れる観光資源の一つになっており、その精神は侍や忍者のようだとまで表する人も少なからずいます。
また、特に秋田犬は著名人にも愛されており、ヘレン・ケラー氏は1937年に秋田市で講演会を開催した愛犬家でした。
2012年の7月には佐竹知事が東日本大震災後の支援に対する東北地方からのお礼として、ロシアのプーチン大統領にメスの秋田犬を贈呈しています。
さらには2018年2月に平昌オリンピックの閉会後、女子フィギュアスケートの金メダリスト・ザギトワ選手が秋田犬を贈呈されたことが報じられました。
このように、古き良き時代のサムライスピリッツなるものを純度高く残している日本犬は海外でも大ブームとなっているのです。
茶道や武士道などもいいのですが、日本犬もまた日本が世界に誇れる文化としてもっと高く評価されるべきものではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回は改めて日本犬の歴史とその種類を縄文時代の起源から現在に至るまでの変遷として解説してきました。
こうしてみると、日本犬は決して飼いやすいわけではないものの、非常に人気と魅力の高い犬種であることが伺えます。
原種から亜種・派生種まで実に彩り豊かで素朴ながらも嘘偽りのない格好良さこそが日本犬の魅力なのでしょう。
現在洋犬との雑種化が進んでいる為に純正の日本犬が少なくなりつつありますが、是非とも守っていきたいものです。