前回の記事で犬が尻尾を下げる意味が一筋縄ではいかないものであることがわかっていただけたかと思います。
今回はその尻尾記事第二弾として、その逆の「尻尾を振る」という行為の意味について具体的な解説をしていきましょう。
皆さんは犬が尻尾を振るというと、よくテレビや小説、映画などで「歓喜」の象徴として捉えているものと思います。
中にはそれこそが犬の代名詞であるとまで思っている方も中にはいらしゃるのではないでしょうか。
勿論それはそれで間違いではありませんが、しかしあくまでそれは氷山の一角に過ぎず他にも意味があるのです。
犬の行動には須らく何かしらの意味があるわけであり、今回は尻尾を振る行為にまつわる犬のサインを読み解きましょう。
飼い主の方やこれから犬を飼おうという方は是非参考にして見てください。
尻尾を振る=嬉しいは本当か?
多くの創作物やテレビの動物番組では犬が尻尾を振ると嬉しい・楽しいといった「歓喜」のサインであるという風に紹介されています。
しかし、テレビや創作物が作り出すものなど所詮は「パブリックイメージ」であり、それが世の真理を反映したものであるとは限りません。
結論から言えば、確かに尻尾を振ることが嬉しさのサインというのは間違いではありませんが、やや正確さを欠いた表現です。
実際には「歓喜」ではなく「興奮」の象徴であり、それを人々はいつの間にか「歓喜」だと錯覚するようになったのでしょう。
「歓喜」と「興奮」は似て非なるものであり、歓喜はあくまでも「興奮」の一部に過ぎず、興奮が必ずしもいいことではないのです。
それを知らずに間違ったしつけをしてしまうと、犬はとんでもなく歪んだ育ち方をしてしまうので、気をつけたいところでしょう。
犬が尻尾を振る気持ち
それではここで犬が尻尾を振る気持ちが果たしてどんな理由によるものなのかを具体的に説明していきましょう。
大まかには以下の3つに分けられるので、参考にしてください。
興奮
最初に挙げられるのは上でも書きましたが、「興奮」でありそこには「歓喜」の意味も含まれています。
具体的なシチュエーションとして挙げられるのは飼い主が外から帰ってきて出迎える時や散歩で何か面白いものに出会った時です。
これらの時には尻尾を振るのは勿論「キャンキャン」と鳴き声まで出して強くその興奮を表しています。
テレビや創作物などで「歓喜」の象徴として用いられているのはおそらくこの状態ではないでしょうか。
ではこの状態が必ずしも喜ばしいことなのかというと、決してそんなことはないので早合点しないようにしましょう。
興奮というのは本来正常な状態で行われる行為ではないので、飼い主もきちんと適切な対応を取ってください。
威嚇
2つ目に挙げられるのが「威嚇」であり、よく森の中などで敵を相手に牽制する時や犯人を見つけた警察犬などがこの威嚇を行います。
この時の犬は完全な臨戦態勢であり、「グルルルル」という鳴き声と共に殺気を発して獲物を仕留めにかかっているのです。
犬は縄張り意識と警戒心が強い生き物なので、身の危険を感じたら威嚇という形で尻尾を振っていつ襲われても大丈夫なようにしておきます。
こうなった時は完全に他を寄せ付けない怖さが出ていますので、飼い主並びに他の方も迂闊に近づいてはなりません。
最悪の場合噛み殺されるなどといった事態に発展しかねないので、そのような状況に陥らせないことが大切です。
尻尾を振っているからといって必ずしも良いことばかりではないというのは正にこの威嚇が示しているのではないでしょうか。
ストレス・サイン
そして3つ目に考えられるのが、恐怖・不安といったストレス・サインであり、何かしらの不調を訴えていると言えるでしょう。
よく番犬などに近づいた時尻尾を上げて振っていることがありますが、あれは見知らぬ人に入られた恐怖からくるのです。
まあ上に書いた威嚇の一種なのですが、興奮にしろ威嚇にしろ不安にしろ、尻尾を上げて振ることは何かしらのストレス・サインの可能性があります。
体調不良を訴えることすらあり、そういう時は何かしらの病気にかかっている可能性も無きにしも非ずなので、必ず見逃さないでください。
最悪の場合、放置しておくと病死に至る可能性もあるので、決して油断や慢心はなさらず目を光らせておきましょう。
尻尾を振っている時の対処法
以上の3つから、犬が尻尾を振るのは基本的にあまりよろしいことではないのがわかって頂けたことでしょう。
それでは、上記3つの対策をそれぞれに応じて解説していきます。飼い主の皆さんはどうぞ以下の点にご注意ください。
興奮している時は冷静に
興奮している時はプラスの意味もあればマイナスの意味もあるので、冷静に何を欲しているのかを見極めましょう。
大事なことは向こうが興奮しているからと変に構わず、あくまでも普段通りスマートに対処していくことです。
冷静さを失っている状態の犬に構ってしまうと、それが癖になって「自分は何をやっても飼い主に構ってもらえる」と思うようになります。
それが一度やり出すと癖になってどんどん悪化するので、決して悪化しないよいうに常に心を落ち着けて呑まれないようにしてください。
こういう時こそ飼い主としての人間的な器が試されているので、取り乱さずいかに上手にいなすことができるかが大切です。
威嚇の時はそっと見守る
犬が威嚇している時は何も言わず黙ってそっとさせて、完全にほとぼりが冷めるまで待つことが大切です。
こういう時もやはり冷静沈着に対応し、飼い主がどっしり構えることで警戒心をなくさせることができるかどうかが鍵となります。
犬の威嚇はそんなに長続きしないので、周りに何か威圧するものがなければ自然と心落ち着くようになっているのです。
反抗期の息子を温かく見守る母のように、犬にも絡んではダメな時、絡んで欲しくない時があることを弁えましょう。
殺気立っている犬は逆に言うと自信がないからそうしているわけなので、自信がつくまで見守ってください。
ストレス・サインは即座に病院へ
恐怖・不安など何かしらのストレス・サインであることが見受けられた時は即座に動物病院へ連れて行きましょう。
あまりにも尻尾振る回数が多い場合、何かしらの病気を抱えているのを訴えているのかもしれません。
興奮や威嚇だけならともかく、家でもそのような回数が多いということはかえって危険サインとなります。
ここまで行くと、飼い主の手に負える領域ではないので、専門家から直々のご指導を仰いでください。
細かなサインであっても、それを放置しておくと後々大きな災いやデメリットになることはたくさんあります。
犬からのSOSをきちんと的確に受け止めて適切な処置ができるかどうかが飼い主の腕の見せ所となるのです。
尻尾を振る時の状態と感情
これで尻尾を振る時は必ずしも良いことばかりを表すわけではないことがわかって頂けたのではないでしょうか。
そこで今度はでは尻尾を振るときにどういう感情なのかを見分けるための尻尾の振り方を見ていきます。
素早く振る時
素早く尻尾を振る時のはウキウキ、ワクワク、ドキドキ!といった風に興奮している状態です。
早く振っているときは興奮の度合いが強く、自由にゆるやかに揺らしているときは友好的な気持ちのときが多くなります。
テレビ番組やフィクションなどで出てくる「犬が喜んでいる時」は大体この状態だと考えてよろしいのではないでしょうか。
しかし、興奮するのはうれしいときだけではないので、その時々の状況や性格などを考えて感情を読み取ってあげましょう。
本当に嬉しい時は尻尾を振らないこともあるので、常に流されず冷静な判断をしていくことが大切です。
腰を落として大きく振る
犬が腰を落として大きく振る時は相手に対して愛情と敬意を表すときに出る動きであり、飼い主さんが帰ってきたときなどによく見られるはずです。
この時は一目散に飼い主の元へ駆けつけて抱きつくといった様子が見られますが、だからと言って安易にリアクションを行わないようにしましょう。
このサインを犬が見せ始めた時は同時に分離不安症のサインであるともいえ、飼い主から見たらある種危険な状態でもあります。
そこを勝手に早合点して飼い犬が鳴いて駆けつけてくれるからと反応してしまうと、甘える隙を与えてしまうことになり、調子に乗りかねません。
あくまでも飼い主と犬は飼い主の方が主導権を握るべきであって、飼い主の方からすり寄って行くことなどあってはならないのです。
どんなに嬉しかったとしても、そこは我慢して冷静沈着な大人の対応をしていくように心がけてください。
しっぽが水平近くでゆっくり振られる
尻尾がリラックスしたフラットな状態であると考えられることが多いので、この時はむしろなんの問題もなく温かく見守りましょう。
大事なことは向こうから来るまで待つことであり、こちら側から寄っていくことなど決してあってはならないということです。
犬は飼い主に気づいて欲しいからわざと尻尾を振っている可能性があるので、そこに乗っかることは犬の策略にまんまとハマることになります。
そこにはまらないようにするためには、徹底してクールに突き放しておくことで距離感をしっかり保つことが大事となるのです。
寧ろ多少なり厳しく突き放す方が「可愛い子には旅をさせよ」で、犬も精神的に鍛えられるのではないでしょうか。
そうやって立派な愛犬へと成長し、どんどんたくましく育って行くのだということを自覚しておいてください。
大事なことは俯瞰の判断力
最も大切なことは尻尾を振っている振っていないではなく、全体の状況や流れを踏まえた俯瞰の判断力です。
尻尾を振っている状態はもちろんのこと、それがいつどこでどんな状態で尻尾を振っているのかを総合的に判断していきましょう。
表情や声のトーン、周囲の状況などで犬の精神状態は細かく変化して行くので、常に細かいチェックを欠かさないで目を光らせておきます。
その上で尻尾を振ったときにそれが興奮か恐怖か嬉しさか威嚇かといったところで意味決定がなされて行くのです。
飼い主は常に視野を広く持ち、決して表面上に惑わされずに奥底まで見据えて犬の心理状態を読み解く訓練をして行きましょう。
同時にそれは他の人間観察や仕事などといったところにも大きく繋がって行きます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
犬は飼い主の目を見て飼い主の感情を読み取りながら、尻尾を様々なタイミングで全く異なる振り方によって色々な感情を人に伝えています。
犬によって、その気持ちの表し方も違いますし、行動も違いますので「しっぽを振っている」=「喜んでいる」という一面的な解釈はしないようにしましょう。
また逆に「しっぽを振らない」=「嫌われている」でもなくしっぽだけでなく飼い主への愛情を色々な行動で示しているのです。
人間が思っている以上に犬は奥ゆかしく繊細な生き物であり、一筋縄ではいかない手強さがあるのですから、匹敵する者は他にいません。
犬たちのしっぽを振らない豊かな感情表現を観察して行くことで、冷静沈着な判断力と対応力を養ってください。