ここら辺まで割と重ための記事が続いてきたので、ここで少し息抜きの話題を提供しましょう。
皆さんは「こいぬ」という読みの単語が3つあることをご存知でしょうか?具体的には「子犬」「仔犬」「小犬」のことです。
これらの漢字は同じ読みでありますが、微妙に意味するところが違っており、厳密には使い分けがなされることもあります。
しかし、皆さんが普通に生活していて、どの意味での「こいぬ」としてその言葉を用いているかまで考えたことはないでしょう。
今回はそうした日常の中で当たり前のこととして見過ごされている「こいぬ」と呼ばれる単語の意味の違いを考察していきます。
形の違いは意味の違い
まず今回はやや言語学的な話になりますが、まず意味論と語用論も含んだ話を少ししてみましょう。
皆さんは次の文章の違いがお分かりでしょうか?
- a.先生が私を叱った
- b.私は先生に叱られた
同じことを意味していますが、能動態のaに比べてbの受動態の方が話者の「迷惑」「被害」というニュアンスの違いが出ています。
同じ内容を表すものでも、言い回しや語気などで全く違った意味になるので、言葉遣いには気をつけなければなりませんよね。
特にアナウンサーや作家・ライターなど「言葉」を武器にして戦う人たちは注意して使うことが求められているのです。
ですから、同じ「こいぬ」でも「仔犬」と「子犬」と「小犬」で全く意味の違う言葉になることを注意しておきましょう。
仔犬の意味
さてまずは「仔犬」という言葉の意味について、しっかり押さえておきましょう。
ネットや雑誌の記事などではよく見かける「仔犬」ですが、果たしてどんな意味があるのでしょうか?
「子犬」との違いも含めて細かな意味の差を調べていきます。
常用外の漢字
まず、この漢字において大事なことは「仔」が常用外の漢字であるということです。
人偏に子と書きますから、「人間の子」が語源にあることは間違いないでしょう。
基本的な意味は「子犬」と変わらず、大同小異の意味だと思っていただいて構いません。
ただ、この漢字をわざわざ好んで使うという人はごくごく少数ではないでしょうか。
まずはこの違いをしっかりと押さえた上で、その正確な意味をつかんで行くことが大事です。
動物専用の表現
元々この漢字は古い中国語の一つとして用いられた漢字だったのだそうです。
動物には「子」を避けて「仔」を使うことが多かったと思われます。
しかし「仔」は常用漢字に入っていないので、「仔犬」と書きたくても使えない場合は「子犬」と書きます。
「仔」を使う場合には大体人間を避けて動物限定で用いられているということを忘れないでください。
間違っても人間に使うことができるものではなく、使って仕舞えばそれはもう単なる侮辱でしかなくなってしまいます。
幼犬期〜社会科期の犬
当然ながら中心の意味は幼犬期〜社会化期までの小さな犬のことを指すということを忘れないでください。
成犬になってしまったら、この漢字を用いることはできませんので間違っても使わないようにしましょう。
特に生まれたての赤ん坊を指す場合にはこの仔犬という言葉を用いると見て間違いありません。
人間が飼っているというニュアンスがより伝わってくるのがわかるのではないでしょうか。
この幼年期〜社会科期の犬を指す場合はぜひ積極的にこちらの意味で用いてあげることが大事です。
言葉は日常生活で使ってこそ大きな意味を持つので、どんどん使って自分の中に定着させてください
子犬の意味
さて、ここでは「子犬」の意味について、勉強していきましょう。
動物のみならず人間にも用いることが出来るこの漢字には果たしてどのような意味があるのでしょうか?
男の尊称
「子」という字は中国では人間の男子の尊称として使われていたという大事な意味がありました。
皆さんも「子」という漢字がつくもので、以下の単語を目にしたことがあるのではないでしょうか。
- 公子
- 君子
- 孔子
- 老子
- 子爵
- 太子
これらで使われている「子」という単語は全て男性側の尊称として用いられているのものです。
なので、「子」という単語は元々非常に素晴らしい高貴な意味合いで用いられていました。
「子」「子宝」「子供」という単語にもそういう意味合いが今でも残っています。
ところが「仔」の方は人間が飼い慣らしているという意味ですから、こんな高貴な意味はありません。
意味感覚の薄れた現代
しかし、現代に入るとそのような意味で用いる人はほとんどいませんから、意味が昔に比べると薄れていると言えるでしょう。
昔に比べて幾分「子」の存在が幾分軽んじられるようになってしまったということも少なかならず意味しています。
なにせ現代は親が子を虐待する傾向がより露骨に目立つようになってしまったのですから、悲しいものです。
また、言葉の意味をきちんと考えずに使っている人が増えている証拠なのではないでしょうか。
なにせ「バズる」だの「エモい」だのと言った言葉をその意味もわからず平気で使っているのが現代人ですからね。
昔に比べて、きちんとした言葉遣いで話せる・書ける人が減ったのはこの辺りからも伺えます。
人間と対等に見ている
本来の尊敬の意味で用いているのであれば、言葉の意味もより肯定的なものに聞こえるでしょう。
人間と対等の存在と見ている海外ではこの言葉で用いられたとしても大丈夫です。
むしろより意味が広がって言って、より良い響きの言葉となるのではないでしょうか。
海外ではペットを決して粗末に扱うような文化は存在しておらず、きちんと法整備から何からシステムを整えています。
こんなに遅れている日本が異常なわけであり、もう一度日本は人間と犬の関係について見直すべきだという風にも見えるでしょう。
人間だろうと動物だろうと同じ「命」であることにはなんら変わりはないのですから、重く受け止めるようにしてください。
小犬の意味
さて、今度は上二つとは全く異なっている「小犬」という言葉の意味について考察していきましょう。
ここがわかれば、もうあなたは「こいぬ」呼びをクリアしたも同然ではないでしょうか。
小犬=小型犬
はい、これはもうストレートに小犬と言えばすなわち「小型犬」のことを指していると思ってください。
体格が小さい犬、それこそが「小犬」なのであって、子供かどうかはまったく関係ありません。
もっと言えば、成犬であったとしても体が小さければ「小犬」と言うことは出来るのですから。
だから、もう分かりやすく小犬=小型犬だとわかってしまえば話はおしまいです。
小型犬に関してはこれまでいくつも記事にしていますので、どうぞ検索から辿ってください。
小犬の対義語が存在しない
面白いのは「小犬」の場合それに呼応する対義語が存在しないと言うことです。
仔犬並びに子犬に関しては対義語として「成犬」と言う単語があることがわかるでしょう。
しかし、「小犬」には「大犬」と言う単語は決して存在せず、「大型犬」と言う単語しかありません。
ここがとても面白いところで、小犬の場合は大型犬を省略して「大犬」などと呼ぶことはできないのです。
この辺りの対義語の有無もまた大きな意味のちがいとなっているのではないでしょうか。
言語学に興味がある人は「小犬」があっても「大犬」がない理由を考察していくといいかもしれません。
人間から見ての大きさ
そして何よりもこの「小犬」という言葉はあくまで人間から見ての大きさであることを忘れないでください。
人間から見て小さければ小さく、大きければ大きいという極めて主観的な言葉になっているのです。
例えば「小犬」はあっても「小猫」という言葉が存在しないのはどうしてでしょうか?
答えは簡単で、猫はどんなに大きく成長しても小犬と同等程度のサイズにしかならないからです。
大きいネコ科の動物はそれはもう猫ではなくライオンやチーターなどになってきます。
このように、人間からみて大きいか小さいかで全てが判断されてしまうのです。
ですから、大きい小さいはとても曖昧なものであることに気付けば、より言葉の面白さがわかって楽しいでしょう。
「なぜ?」という疑問を常に持つこと
こうして調べていくと、3つの「こいぬ」には細かい意味の違いや使い分けがあることがわかって頂けるでしょう。
日常の小さなことに「なぜ?」という疑問を持つことはとても大事であり、それが新しい発見を生み出すのです。
言葉一つをとっても形の違いは意味の違い、そして意味の違いは形の違いとなって現れるのではないでしょうか。
それを一々疑問に思うことをしないだけで、想像力をめぐらせれば言葉一つをとっても疑問は湧き出てくるものです。
そうした疑問を常に持ち、世に問い続けることで疑問は大きく膨らんでいくものではないでしょうか。
たかが犬、されど犬であり、本当に大事なことは常に疑問を持ち続け、勉強し続けていくことです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
こうして見ていくと、子犬・仔犬・小犬のいずれもが全くそれぞれに違う意味を持つことがわかりました。
細かいことですが、言葉というものは勉強していけばいくほど面白いものになっていくのです。
逆に言えば、いかに普段我々が言葉の意味をきちんと深くまで考えずに使っているかが本記事でわかっていただけたことでしょう。
もちろん全ての言葉に疑問を持っていては一生が終わってしまいますので、たまにふと振り返った時でいいんです。
そういう時にたまに思い出すようにして、言葉の違いについて考えて見るのも一興ではないでしょうか。